・ドーピング/アンチ・ドーピングって何?
・何をしたらドーピング違反になるの?
・使用できる薬を探す方法は?
・治療で禁止物質(ステロイドなど)を使わなければならない場合はどうする?
こんなお悩みを解決できる記事を書きました!
この記事は、アンチ・ドーピング団体に初めて所属する競技者向けに書いています。
この記事を読むことで、次の3点を知ることができます。
- ドーピング/アンチ・ドーピングについての概要の理解
- 使用可能薬を探す方法
- 病気の治療のために禁止物質を使う必要があるときの正しい対処方法
JBBFを始め、アンチ・ドーピング団体に所属して競技をする場合は、ドーピングについて正しい知識を持ち、「正しく恐れる」ことが重要です。
ドーピング規定で禁止されている物質は、市販薬に含まれているケースもあるため、競技者は使用する薬やサプリメントに注意を払う必要があります。
アンチ・ドーピング団体に所属する以上、「〇〇さんが言っていたから大丈夫」は信用せず、自分で確かめ、自分の責任で薬・サプリメントを使いましょう。
この記事は2023年4月の情報をもとに書いています。毎年ルールや禁止物質に変更が加えられるため、必ず最新の情報を確認してください
ドーピングとアンチ・ドーピング
ドーピングとは
JADA(日本アンチ・ドーピング機構)のサイトによると、「ドーピング」の定義は以下の通りです。
ドーピングとは「スポーツにおいて禁止されている物質や方法によって競技能力を高め、意図的に自分だけが優位に立ち、勝利を得ようとする行為」のことです。禁止薬物を意図的に使用することだけをドーピングと呼びがちですが、それだけではありません。意図的であるかどうかに関わらず、ルールに反する様々な競技能力を高める「方法」や、それらの行為を「隠すこと」も含めて、ドーピングと呼びます。
-JADA公式サイト「アンチ・ドーピングとは」より引用
特にボディビル業界においては、「ドーピング=ステロイドの使用」というイメージがあります。
しかし、本来的な"ドーピング"はステロイド(禁止物質の使用)だけでなく、他の「競技力を高める方法」やそれらを「隠す」ことも含まれます。
なぜアンチ・ドーピングなのか
アンチ・ドーピングが必要な主な理由は、「ドーピングが蔓延すると、スポーツがフェアでなくなってしまうから」です。
JADAのサイトでは次のように記載されています。
競い合う相手がドーピングをしているかもしれないという疑いがある時、自分自身が真剣にスポーツに打ち込めるでしょうか?相手の勝利を心から称えることができるでしょうか?
また、スポーツにおいてドーピングが当たり前になってしまったら、どのようなことが起こるでしょうか?
スタジアムへスポーツを見に行きたいと思うでしょうか?家族や友達にスポーツをやってほしいと思うでしょうか?
-JADA公式サイト「アンチ・ドーピングとは」より引用
ボディビルカテゴリでは、スポーツの公平性よりもエンタメ的な側面を重視して発展した団体があります。
自分がアンチ・ドーピングに対してどのようなスタンスでいたいのかを深く考えた上で、各団体の理念と照らし合わせ、納得した上で出場しましょう。
11のアンチ・ドーピング違反
次に、具体的にどのような項目がアンチ・ドーピング違反に該当するのかを見ていきましょう。
以下は、世界アンチ・ドーピング規程で定められている11の違反項目です。
- 採取した尿や血液に禁止物質が存在すること
- 禁止物質・禁止方法の使用または使用を企てること
- ドーピング検査を拒否または避けること
- ドーピング・コントロール(注1)を妨害または妨害しようとすること
- 居場所情報関連の義務(注2)を果たさないこと
- 正当な理由なく禁止物質・禁止方法を持っていること
- 禁止物質・禁止方法を不正に取引し、入手しようとすること
- アスリートに対して禁止物質・禁止方法を使用または使用を企てること
- アンチ・ドーピング規則違反を手伝い、促し、共謀し、関与する、または関与を企てること
- アンチ・ドーピング規則違反に関与していた人とスポーツの場で関係を持つこと
- ドーピングに関する通報者を阻止したり、通報に対して報復(注3)すること
注1:コントロールとは、ドーピング検査の一連の流れのことを指します
注2:あらかじめ指定されたアスリートは、自身の居場所情報を専用のシステムを通して提出、更新する必要があります
注3:「報復」とは通報する本人、その家族、友人の身体、精神、経済的利益を脅かす行為
気をつけなければならないのは、アスリートだけではなく、コーチやスタッフ等、関わったメンバーもアンチ・ドーピング違反になる可能性があることです。
また、項目10においては、「関与者とスポーツの場で関連を持つこと」と定義されており、自分が知らないうちに巻き込まれる可能性も否定できません。
次の今古賀翔さんの動画は非常に参考になります。
ドーピング検査の方法
ドーピング検査は、アスリートの尿や血液を採取して行われます。
尿検査の詳しい流れについては、JADAのアスリート向けサイトに記載があります。
アンチ・ドーピング団体の競技者は一度目を通しておきましょう。
⇒JADAアスリート向けサイト「尿検査の手順」
アンチ・ドーピングに違反するとどうなる?
アンチ・ドーピングに違反すると、次のような制裁が加えられます。
- 競技成績の取り消し
- 一定期間の競技禁止
また、JBBFの場合は競技者・保証人・所属連盟に罰則金が科せられます。
⇒JBBF公式サイト「定款・細則・規程」の「5.1 アンチ・ドーピング規程(2017年3月12日更新)」
禁止物質と禁止方法
ドーピングの禁止対象は、「禁止物質」と「禁止方法」の2つがあります。
禁止物質
1.競技会で禁止されている物質
全スポーツ共通で競技会時に禁止されている物質です。
興奮剤、麻薬などが該当します。
2.競技会以外でも禁止されている物質
全スポーツ共通で競技会以外でも禁止されている物質です。
蛋白同化ステロイド、利尿薬などが該当します。
3.特定のスポーツで禁止される物質
アーチェリー・スキーなど特定のスポーツで禁止されている物質です。
種目により、競技会時のみに禁止・競技会以外も禁止に分かれています。
ベータ遮断薬が該当します。
参考⇒JADA公式サイト「禁止表国際基準」
禁止方法
禁止事項には、物質だけでなく「方法」も指定されています。
1.血液を操作すること
例)赤血球製剤を投与すること
2.化学的及び物理的な操作
例)検体をすり替えること(物理的な操作)
3.遺伝子及び細胞ドーピング
例)遺伝子編集など
参考⇒JADA公式サイト「禁止表国際基準」
漢方薬に注意
体に優しいイメージのある漢方薬ですが、アンチ・ドーピングの観点では注意が必要です。
漢方薬に含まれる生薬には禁止物質を含むものがあります。
例えば、風邪のひき始めに飲む葛根湯に含まれる麻黄(マオウ)にはエフェドリンが含まれています。エフェドリンは興奮作用を持ち、「競技会時の使用禁止物質」に指定されています。
麻黄以外の漢方も、原料は天然の植物等です。そのため、その成分を正確に把握することは難しいです。
正しい知識を持ってきちんと確認すれば、使用できる漢方薬もおそらくあると思います。
ただ、そこまでして漢方薬を使う必要性がないため、今は使っていません。
競技者が漢方薬を使用する際は、他の薬と同様、細心の注意を払いましょう。
サプリメントに注意
サプリメントにも注意が必要です。過去にはサプリメントの摂取によるドーピング事例があります。
大きく分けると、意図的・非意図的の2つのケースがあります。
- 禁止物質が含まれているか確認せず、禁止物質が含まれるサプリメントを摂取した
- アンチ・ドーピングに配慮した製品であることを確認してしたが、禁止物質が混入していた
アンチ・ドーピングに配慮した製品でも、禁止物質が混入してしまうのは、次のようなケースが考えられます。
- 検査対象が一部ロットであり検査をすり抜けてしまった
- WADAの指定した禁止物質リストのすべての検査をしていない
- 原料が天然成分のために禁止物質が混入した
- 禁止物質を含む製品と同じ製造ラインを使用したため、汚染された(コンタミネーション)
サプリメントがアンチ・ドーピングに配慮されているかを確認するには、次のような認証マークの有無を確認することで判断出来ます。
参考サイト⇒アンチ・ドーピング×【医療機関専用サプリメント】ヘルシーパス「インフォームド・チョイスとは」
⇒スポーツ栄養WEB「Chapter3. サプリメント選びと注意点」
使用可能薬の探し方4つ
使用可能薬を探すには、次の4つの方法があります。
(1)JSPOの使用可能薬リスト
JSPO(公益財団法人日本スポーツ協会)は「競技会時でも安心して使える使用可能薬リスト」を毎年公開しています。
使用できる薬の中でも、代表的な製品(市販薬と処方薬)が記載されています。
利用の際は有効期間に注意しましょう。
⇒JSPO公式サイト「アンチ・ドーピング」
(2)GROBAL-DRO JAPAN
GROBAL-DROは商品や成分を検索するためのサイトで、アメリカ・カナダなど諸外国と日本の7か国で運用されています。
競技カテゴリごとに、商品名・製品名で検索することができます。
(3)DINX
市販薬・処方薬にドーピング対象物質が含まれていないか確認できるアプリです。
バーコード読み込みで判定ができるため、ドラッグストアで薬を探す際に非常に便利です。
⇒DINX
(4)スポーツファーマシストに相談する
スポーツファーマシストとは、最新のアンチ・ドーピングの知識を持つ、JADA認定の薬剤師です。
「スポーツファーマシスト」からスポーツファーマシストを探すことができます。
病気の治療に禁止物質を使う必要があるとき
手続きがあればOK
アンチ・ドーピング競技者でも、病気の治療のために禁止物質を使わなければならないケースが出てくるときがあります。
そのような場合は正当な手続きを踏めば、禁止物質を使うことができます。
この手続きのことを「TUE申請」といいます。
原則は事前申請がルールですが、緊急を要する治療を行った場合は、治療を開始してから申請をすることもできます(遡及的TUE申請)
参考サイトJADA医療従事者サイト「TUE申請の流れ」
実際に私がTUE申請をしたとき
2022年シーズンの7月、私は突発性難聴を発症し、治療のためにステロイド経口薬を使用しました。
その際、TUE申請を行った際のことを次の記事にまとめています。
-
【JBBF選手向け】競技者なら知っておきたいTUE申請/私が申請したときのこと
こんなお悩みを解決できる記事を書きました! 私は今年の7月下旬(大会シーズン中)に突発性難聴になり、治療のためにステロイド(飲み薬)を服用することになりました。 アンチ・ドーピング講習は受けていたため ...
続きを見る
参考サイト
まとめ
- アンチ・ドーピングは「フェアなスポーツ」を守るために大切
- アンチ・ドーピング違反は「禁止物質・方法を使う」だけでなく、違反に関与したり、違反者とスポーツの場で関係を持つことも違反対象になる
- 使用可能薬を探す方法は次の4つ
- JSPOの使用可能薬リスト(JSPO公式サイト「アンチ・ドーピング」)
- GROBAL-DRO JAPAN
- DINX
- スポーツファーマシスト
- 漢方薬には禁止物質が含まれる場合があるため、注意が必要
- 同様に、サプリメントにも注意が必要。認証マークがヒントになる。
- 病気の治療に禁止物質を使う必要があるときは、手続き(TUE申請)をすればOK