・もしどうしてもドーピング禁止薬を使わなければいけなくなったらどうすればいい?
・どんな手続きがあるの?どんな書類が必要?
こんなお悩みを解決できる記事を書きました!
私は今年の7月下旬(大会シーズン中)に突発性難聴になり、治療のためにステロイド(飲み薬)を服用することになりました。
アンチ・ドーピング講習は受けていたため、「ドーピング禁止物質を使わないこと」と「どうしてもの場合は事前申請すること」は理解していましたが、
実際に自分が緊急でステロイドを服用しなければならない状況になったとき、とても焦りました。
今回はその経験を踏まえ、JADA(日本アンチ・ドーピング機構)加盟団体で競技を行うアスリートの方に、「どうしてもドーピング禁止物質を使わないといけない状況になったとき」の方法について共有します。
この記事は2022/9/18に作成したJBBFの選手向け情報です。最新の情報はJADA公式サイトで確認をしてください。[toc]
治療目的で禁止物質を使わないといけない状況とは?
治療薬に禁止薬物を含むケースがある病気の例
JADAの医療者向けサイトで、国内でTUE申請件数の多い事例として挙げられているものは以下です。(2022/9/18時点)
- ADHD
- アナフィラキシーショック(緊急使用の場合)
- アレルギー性皮膚炎
- 気管支喘息
- 高血圧/低血圧
- 糖尿病
- 突発性難聴
- 乳がん
- 関節リウマチ/全身性エリテマトーデス
- 成長ホルモン分泌不全症
JADA医療従事者サイト「TUE申請の流れ」より引用
ボディビル/フィットネス競技者の場合、甲状腺の異常によりTUE申請をした事例を複数聞いています。
もし治療目的で禁止物質を使わざるを得なくなったら
JADA加盟団体においては、治療目的で禁止物質を使用せざるを得ない(=ほかに治療法がない)場合、治療使用特例(TUE)を申請し、承認されればその物質を治療目的に限り使うことが出来ます。
そのため、速やかにTUE申請の準備を行いましょう。
ただし、JADAの定める「アスリート・レベル(カテゴリー)」によって申請のタイミングは異なります。
アスリート・レベル(カテゴリー)とは
JADAは「アスリート・レベル(カテゴリー)」(※以下、アスリート・レベル)というカテゴリ分けを行い、それぞれのカテゴリに応じてドーピング・コントロールやTUE申請を行っています。
JADA公式サイト「アスリート・カテゴリー」によると、JBBFの競技者はほとんど次のアスリート・カテゴリーのどちらかに入ると思われます。
国内レベル競技者/ National Level Athletes
①JADAに登録されているRTP/TPアスリート
(JADAより指定されて居場所情報を提出しているアスリート)
または
②JADAが指定する競技ごとの国内最高レベルの競技会において競技するアスリート
レクリエーション競技者 / Recreational Athletes
国際レベル競技者または国内レベル競技者ではない競技者のなかで、
過去5年間に、以下に該当しないアスリート
- 「国際レベルの競技者」 or「 国内レベルの競技者」であった者
- オープン・カテゴリーで国際競技大会においていずれかの国を代表したことがある者
- IF/NADOによりRTPに指定 or 居場所情報を提出したことがある者
また、国内レベル競技者の②にある「国内最高レベルの競技会」について、ボディビル・フィットネスカテゴリで指定されているのは以下の4つの大会になります。(2022/9/18時点)
- 日本クラシックボディビル選手権
- オールジャパンフィットネス選手権大会
- 日本クラス別ボディビル選手権
- 日本ボディビル選手権
JADA公式サイト「国内最高レベルの競技大会一覧(国内のTUE事前申請が必要な競技大会一覧)」より引用
つまり、ボディビル・フィットネスカテゴリにおいては以下のような区分けになるはずです。
国内レベル競技者- 居場所情報の提出が義務付けられている人
- 上記記載の4大会に出る人
- 過去5年間に上記記載の4大会に出たことがある人(レクリエーション競技者は「過去5年間に『国内レベル競技者でないこと』が条件のため)
- 過去5年間に上記の4大会に出たことがない人(地方/ブロック大会のみなど)
まずはご自身がどこに該当するかを確認しましょう。
アスリート・レベルとTUE申請
TUE申請には「事前申請(通常のTUE申請)」と「事後申請(遡及的TUE申請)」の2つがあります。
どちらになるかは、アスリート・レベルによって異なります。
まず、国内レベル競技者の場合は事前申請が必要となります。
つまり、前述の4大会に出る人/過去5年に出たことがある人は事前申請となります。
事前申請は原則としてTUEの付与が必要な日(=大会日)の30日前までに提出が必要です。
参照:JADA公式サイト「薬の使用及び治療使用特例(TUE)>TUE申請を準備・申請する(国内レベルアスリート))」
レクリエーション競技者の場合は、事後申請となります。
この事後申請は必ず必要になるものではなく、大会時のドーピング検査で禁止薬物・方法が検出された場合に行う必要があります。
(ここでTUE申請を行わなかったり、TUEが承認されない場合、アンチ・ドーピング規約違反になる可能性があります。
参照:JADA公式サイト「薬の使用及び治療使用特例(TUE)>TUE申請を準備する(国際レベル/国内レベルアスリート以外)」
また、緊急・救急時など、「今すぐ治療を行わないと、健康に重大な影響を及ぼす場合」においては、治療を先に行い、事後申請(遡及的TUE申請)を行うことが可能です。
ただし、TUE付与条件を満たしていないと、TUEは承認されません。
参照:JADA公式サイト「薬の使用及び治療使用特例(TUE)>遡及的TUE申請」
TUEが承認されるためには
TUEが承認されるためには、以下の4点が証明されなければなりません。
そのため、治療の前に医師に確認及び証明の対応をお願いしておくことが必要です。
- 適切な臨床的証拠にもとづく診断であること
- 使用しても、健康を取り戻す以上に競技力を向上させる効果を生まないこと
- 禁止物質・方法が該当疾患に対する適応治療であり、他に代えられる治療方法がないこと
- ドーピングの副作用に対する治療ではないこと
JADA公式サイト「薬の使用及び治療使用特例(TUE)>TUE取得の条件」より引用
申請方法
必要な書類を準備する
まずは、必要な書類をサイトからダウンロードします。
→JADA公式サイト「TUE(治療使用特例)に関する書式」
書類は英語記載(書類によっては英字&大文字のみ記載)のため、注意が必要です。
アスリート自身が記載するものと、医師が記載するものがあります。
医師の記載内容は前述したTUE取得の条件を満たす必要があり、症状によっては検査結果などの資料も必要になります。
JADAの医療従事者向けサイトを医師に共有しておくと良いと思います。
医師に書類作成を依頼する場合、書類作成費を請求される場合があります。
コピーを取ったうえで送付する
書類の準備が終わったら、コピーを必ず取り、指定の住所に郵送しましょう。
その後、審査が行われ、郵送で結果が通知されます。
審査結果を大会主催連盟に通知する必要はありません。
JADA公式サイト「薬の使用及び治療使用特例(TUE)>TUE申請を準備・申請する(国内レベルアスリート))」
私の場合
ここからは私が今回行ったTUE申請についてお話します。
突発性難聴の発症とステロイド治療
シーズン初戦の直後、7/19に「左耳が聞こえづらい」と感じました。
その時はストレスのせいだ、数日すれば治るだろうと思い放置していました。
2日後の7/21に友人との会話の中で突発性難聴の可能性を指摘され、病院に行き、突発性難聴の診断を受けました。
突発性難聴の治療薬はステロイド(飲み薬)の服用のみで、かつ時間の経過とともに難聴や聴覚を失うリスクが高くなることから、治療を優先し、遡及的TUE申請をすることを決めました。
医師には自身がアスリートであること、アンチ・ドーピング機関に提出するための書類の提出があること、書類を揃えてから改めて来院することを伝えました。
突発性難聴の症状は、投薬治療を3日行い、回復しました。
書類の準備
改めてTUE申請について調べ、その時の自分は「レクリエーション競技者」に該当していましたが、オールジャパンに出場することを決めている(=オールジャパン時には国内レベル競技者に該当する)ため、TUE申請が必要な状況だとわかりました。
7/23に必要な書類を揃えて病院に行き、依頼をしました。
7/26に記載が終わった書類を受け取りました。書類作成費として5,000円支払いました。
翌日7/27に書類を郵送しました。
審査結果
8/10に審査結果が郵送で届き、無事にTUE付与となりました。
書類郵送から審査結果到着まで15日間となりました。
判定自体は8/2に行われたようでした。
まとめ
- アンチ・ドーピング加盟団体で競技をしている人が、禁止物質を治療のために使用する必要が生じたときはTUE申請が必要になる
- TUE申請は「事前申請」と「事後申請(遡及的TUE申請)」がある
- どのタイミングで申請が必要かはアスリート・レベルによって異なる
- 書類は英語で記載、アスリートが書くものと医師が書くものがある
- 状況によっては検査結果等の書類の添付も必要
- 私が申請を行った際は、郵送→審査結果受け取りまで15日かかった